逸材
ついこの間まで上着を着ていたのに、地球が2段飛ばしで暖かくなっていくせいで、急激に夏にちかづいている毎日です。今日は5月な半ばにして30℃近くまで上がるそうです。
そんな中、僕は若者の中にこれからの日本を引っ張ってくれるであろう逸材を見つけました。
ある日のことでした。
仕事の疲れを癒そうと京都で友人に会ってきた帰路でした。既に僕の頭は妄想から現実に強制送還され、また明日から始まる仕事のボディーブローに耐えながら京都と大阪を結ぶ私鉄に乗っていました。
特急なのに乗客はまばらで、僕の周りには人生に一切の希望を見出せないようなノイローゼ気味のサラリーマンと、まだもう寒くないのにマフラーやら厚手のダウンやらを着込んでいるエスキモーみたいな人と、あと高校生のカップルがいるだけでした。
見るともなしに窓の外を見ていると、何やら話し声が聞こえてきました。
前の席に座っている高校生カップルの話し声でした。
「ユウジくんには誰もかなわないよー」
「かなちゃん、そんなこと言っちゃ他の人に失礼じゃないか
静謐な車内に響いてきたのは若年カップルのイチャイチャ感満載の話し声でした。
「ねぇねぇ、ゆうじくん、がばいばあちゃんって映画知ってる??」
「え?よばいばあちゃん?」
こいつは耳が悪いのかそれとも根本的に頭が悪いのか。
夜眠っているとばあちゃんが夜這いしてくるという、どう考えてもホラーな映画に僕が震えていると
「何それーゆうじくんおもしろーい」
このカップルは俗に言うバカップルというものに類別されるもののようです。
「ゆうじくん、地下鉄サリン事件ってあるじゃん?」
「地下鉄キリン事件?知らないなぁどんな事件なの?」
彼は本格的に日本語がわからないのかもしらない。帰国子女か何かなのか。
僕は地下鉄のホームにキリンが殺到する情景を思い浮かます。
ちなみにキリンは一日の平均睡眠時間10分で、水分をほとんどとらなくてもいい身体構造を持っており、交尾の九割はオス同士らしいです。
「ゆうじくん、かっこいい!」
ガラスに男子生徒の晴れがましい表情が投影され、それが見えてしまった僕は今手にしている空きペットボトルがどう使えば一番強力な凶器になるかを思案していると、
「まもなくー京橋ー京橋ー」
という車掌の無味乾燥なアナウンスが聞こえ、我にかえました。
やっとこの状況から解放される、、、
あと少しの辛抱だと僕は自分に言い聞かせます。
そして、電車がホームに着く間際になり、他の乗客たちも降車の準備をはじめたとき。
ぶぅ〜
密室空間である車内に、爆音とも言える大音量が響きわたました。
彼女のオナラです。
この状態では言い逃れなどできるはずもなく、故意に出したわけではないようなので、当人というか犯人は、かわいそうな対象なのですが、彼氏の前で放屁してしまったというのはさすがに憐憫の情にかられます。
彼女は自分が何をしたかわかっていないような、認めたくないような表情です。
サラリーマンはレム睡眠から無理矢理現実に連れ戻され、エスキモーはテロかと思ったのか乞驚とした表情。まぁテロには違いないけど。
この状況はさすがまずい。静謐な空間が刹那、殺伐とした集団処刑所と化しました。
早急にフォローがいる。しかし僕にはどうしようもありません。
すると、彼が一言いいました。
「すまん、ハモれなかった」
こいつ、、できる!!